17 効果的な情報管理---倫理に関する質問事項

アンドリュー・B・モリス

出典

Andrew B. Morris, Effective Information Managenent: Question of Ethics in Social and Ethical Computer Revolutione, edited by Joseph Migga Kizza, 1996, MacFarland & Company, Inc.

概略

この論文は、『コンピュータ革命の社会的そして倫理的影響』という本に収め られているものである。この本は、Joseph Migga Kizzaによって編纂されており、 情報教育については、異なった著者の5つの論文が掲載されている。本論文は「情 報管理」に関して、倫理的側面から浮き彫りにしようとしたもので、アンケート の内容と、その結果をまとめたものとなっている。質問事項は、31項目にわたり、 それぞれに対して、1,倫理的に容認できる 2,疑わしい 3,容認できない とい う3種類の選択肢から選択する形式になっている。論文自体では、アンケート結 果に関する細かな分析はなされていない。

このアンケートは、実際に社会で働いている人間と、学生の間の倫理的態度の 差を明らかにしようという目的から、実際に働いている情報管理者と、将来情報 管理者になるであろう学生を対象に実施されている。著者のMorrisは、効果的な情報 管 理のためには、情報に対する倫理的態度を探ることが先決であると述べている。 そして、そのことが結局は、学生に関していえば、情報教育へ役立つものだとい えるだろう。

日本にも本格的な情報化の波が押し寄せ、ハイテク犯罪も増加の一途をたどっ ている。こういった社会状況からも、情報に関する「倫理的意識」を育んでいく ことは必要である。このような意識を育むためには、こういった倫理的に問題のあ る状況を設定してそれに回答する形式のアンケートを実施することは一つの材料 になるように思われる。

1 序

情報は、現代社会において最も重要な財産となってきている。そして、一部の 専門家たち、すなわち情報システム(IS)の専門家たちには、効率的な情報の収 集、保護、利用を管理する責任が生じてきている。情報は、他の「実体的な」 財産とは違い、その管理を複雑にする特殊な財産である。情報は、富や権力の 源となるものであり、比較的維持費もかからない。しかし、ちょっとしたこと で、全く価値のないものになってしまう可能性もある。

情報システムの専門家たちは、急速な速度で進む科学技術の発展と共に増加す る複雑な状況の中に身を置いており、情報を制御するという社会的圧力を身に 受けている。多くのIS専門家は、情報の本質が「ソフトな」技術と理解されて いるのに対し、「ハードな」テクノロジーの技術を教え込まれているのである。 IS専門家の肩にのしかかっている効率的な情報管理という重荷に対して、法的 制度が適切な解決法を与えるとはいえないだろう。

一つの解決法は、情報管理の効果的な政策に対する意識を育て、行動へと移すため に、情報を取り巻く問題、つまり情報に関するプライバシーの問題、著作権の問題、 アクセス制御の問題、を挙げていくことである。

この調査は、ケープタウン大学で、倫理的要素を伴った状況への態度を検査するシナ リオを用いることに焦点を当て行われた。「実際の生活」状況への応答に直面するこ とは、情報に対するアプローチへのいくつかの洞察を提供した。これらの結果は、確 固たるものとはいえないが、さらなる分析と議論への礎を形成するものである。

2 調査方法

この調査は、IS管理者と将来ISの専門家になるであろうISの学生との間の相違を 見るためにParadiceの研究から発展したものである。この調査は次の2点の確立 を目的としたものである。

アンケートは350人のIS管理者に郵送し、122人の回答を得た。回収率は35{\%であ る。 サンプルのターゲットは代表的な南アフリカの会社にいる上級IS管理者である。 南アフリカの主要大学に在籍するISの学生からは、175人のアンケート回答を得た。

3 分析

すべての結果から、学生は管理者が抱いているものとは違った態度を抱いており、潜 在的に、倫理的ではない振る舞いへの態度に関してより寛容であるという仮説が支持 される。学生よりも管理者の方がより寛大であった状況に関しては、おそらく管理者 がその状況を実際に体験したことがあるのだと説明づけることができるかもしれな い。このことは、ひとたび学生が専門家になったとき、この経験が彼らの態度に直接 影響するということを確証するものになるかもしれない。しかし、即座に学生が専門 家にはならないであろうし、その間にこの種の経験が受け入れがたい状況が創り出さ れる可能性もあり得る。

学生が雇用者に雇われたとき、彼らが直面するであろう問題に敏感になるために、IS のカリキュラムの中に倫理を組み入れることを考える必要がある。組織にとっては、 この調査が、情報政策に関する指導を形式化する上で考えられる諸問題を提出する。

アンケートのシナリオ

3.1 コピーしたソフトを持つ意志

ある大学に在籍する学生は、彼女が所属しているクラスで、高価な Spreadsheetプログラムを使って学習していた。学生は、大学のコンピュータ 室に入り、Spreadsheetをチェックし、彼女のアセスメントを完了し、ソフト を戻した。ソフトのコピーを禁じる標識がコンピュータ室には掲げられていた。 ある日、彼女はソフトをコピーして彼女のアパートで彼女のアセスメントの作 業を行った。

回答は「容認できる」「疑わしい」「容認できない」から選択する。以下の質問 でも同様。

3.2 利益のために会社の機器を使用する

あるコンピュータプログラマーは、販売するための小さなコンピュータシステ ムを構築していた。これは、彼の主だった収入源ではなかった。彼は適度な大 きさのコンピュータ会社に勤めていた。彼は、誰も働いていない土曜日に会社 へ赴き、雇い主のコンピュータをシステム開発のために使用した。彼は、彼が 建物に入った事実を隠してはいない。彼は、彼が入ってきた時間ごとに、セキュ リティー・デスクに署名しなくてはならないからである。

3.3 利益ではないものに会社の機器を使用する

あるコンピュータプログラマーは、彼の友達に与えるための小さなコンピュー タシステムを構築していた。彼は、誰も働いていない土曜日に会社へ赴き、雇 い主のコンピュータをシステム開発のために使用した。彼は、彼が建物に入っ た事実を隠してはいない。彼は、彼が入ってきた時間ごとに、セキュリティー・ デスクに署名しなくてはならないからである。

3.4ウィルスプログラムに関する意志

ウィルスプログラムは、ユーザーが要求していない仕事をするか、したくない ことをするようなプログラムである。いくつかのウィルスプログラムは、自動 的に他のディスクへと自分をコピーし、予想しないユーザーに広まるであろう。 ある日、ある学生が、コンピュータがユーザーが入力した五番目のコマンドを いつも無視するようなウィルスプログラムを書こうと決めた。この学生は、彼 のプログラムを大学のコンピュータ室に持ってきて、一つのコンピュータにイ ンストールした。まもなく、数百人のユーザーにこのウィルスは広まってしまっ た。

3.5 調査に関する意志

ある田舎の郡庁舎にいる経営情報システム(MIS)の従業員は、その地方のすべての記 録にアクセスできた。数週間以上前から、彼女は近所の人の買い物癖について疑いを 持つようになった。近所の人は、家を塗り替え、新しいローン(麻・綿布)の家具や新 しい高価な車を購入していた。彼女は、いかにしてこれらの購入の資金を得ることが できたのか調べてみるために近所の人の記録にアクセスしようと決心した。

3.6 犯罪データベースに関する意志

FBIは、犯罪で告発されたすべての人物に関して情報を維持するためにデータベース を構築したがっている。犯罪で告発されたすべての人物は、FBIによって求められた 情報を提供することを、法によって要求されることになるであろう。

3.7 検挙データベースに関する意志

FBIは、犯罪で告発されたすべての人物の情報を維持したがっている。犯罪で告発さ れたすべての人物は、FBIによって求められた情報を提供することを、法によって要 求されることになるであろう。データは、人の生活のために維持されるであろう。

3.8 学術的データベースに関する意志

FBIは、博士号を持つすべての人物のデータを維持したがっている。その理由は、こ れらの人物が、危機の時代において必要とされるかもしれない重要な国家の情報を提 供するからである。博士号を受け取った人物は、FBIによって求められた情報を提供 することを、法によって要求されることになるであろう。

3.9 命令において行為する義務

ある大学生は、地域の商店街で調査するために雇われていた。彼に支払われるお金の 総計は、調査が完了した数によって基準づけられていた。調査を行っている会社は、 「家族層」と見なされる購買者たちからの入力を得たがっていた。学生に与えられた 命令は、子どもを伴った人物の反応を得ることであったにもかかわらず、彼は特別、 子どもについて尋ねる質問項目が何もないことに気づいた。 彼は商店街で友達のグ ループを見つけ、購買者からの反応を得ることは成功しなかったため、友達を調査す ることで調査を終えることを納得した。

3.10 情報を提供する義務

ある電話オペレーターは、Dennis Barkの電話番号を求める電話を受け取った。 彼は、ISに要求を入力するとき、要求がDennis Barkか Dennis Baratか 思い出せなくなってしまった。彼は、システムにDennis Bar$\ast\,$(星印 が付いたすべてのスペルの電話番号に符合するシステム)と打ち込もうと決めた。 システムは、ファーストネームが符合する電話番号を自動的に与えるだろう。 もし間違っていれば、もう一度オペレーターに電話を掛けることができる。

3.11 要件を提供する義務

あるコンピュータ店が、限定数のコンピュータシステムを販売していた。システムの 一つを買った人が、商品に大変満足していたので、彼は、友達にも同じものを買うこ とを勧めた。友達は、店に電話をして、システムの詳細を販売員に説明した。そし て、友達と同じシステムを得ることができるかとうか販売員に尋ねた。販売員は、で きると言い、彼女は店に来ることに同意した。彼女が店に来たとき、販売員は、モニ ターが違うシステムを示した。彼女がその違いについて尋ねたとき、販売員は、彼女 の友達のモニターと性能が同等であることを彼女に話した。ただ違うことは、彼女の 友達のモニターが性能を替えるためのスイッチがあるのに対し、彼女のシステムのモ ニターでは、性能の変換がソフトウェアの信号に依存していると言うことであった。 それ以外は、モニターは同等であり、同じ値段であった。

3.12 顧客に対する義務

小さな会社の経営者が、コンピュータを基礎にした計算システムを必要とした。彼 は、自分の要求を満たすと思われる様々な入力と出力を示した。彼は彼のデザインを コンピュータプログラマーに見せて、彼女がこのシステムを満たすことが可能であれ ば、ということで、彼女に頼んだ。彼女は以前にもより洗練された計算システムを開 発したことがあったので、このシステムを満たすことができることはわかっていた。 事実、彼女はこのシステムが未完成なものであり、すぐに大きな再構築が必要である であろうと思われた。しかし、彼女は、そのことについて何も言わなかった。なぜな ら、この依頼者に彼女が尋ねられなかったからである。彼女は、おそらく後に必要な 改訂を満たす依頼が一つ入ってくるであろう、と考えた。

3.13 正確さの義務

ある銀行が、ローン適応に関してのインタビューを行っていた。銀行員は疲れてお り、消費者が彼に彼女の最終学歴をしゃべっているときに、注意散漫になっていた。 彼は、不注意を悟られるのを嫌い、彼女はおそらく理工学士を取得したと言っている のであろうと推測した。彼の経験上最も一般的な答えがそれであったため、そう彼は 記録した。

3.14 認識の義務

ある科学者は、理論の証明のためにコンピュータモデルの構築を必要とする理論を開 発した。彼は、モデルを構築するためにコンピュータプログラマーを雇い、その理論 が正しいことが示された。科学者は、理論の開発によっていくつかの賞を受賞した。 しかし、彼はコンピュータプログラマーの貢献を決して認めなかった。

3.15 責任性の義務

あるエンジニアは、一連の複雑な演算プログラムを必要とした。彼女は、プログラム を書く能力があるコンピュータプログラマーを見つけたが、もしプログラマーが彼女 の演算に関するエラーが原因であると思われる責任を配分することに同意するのであ れば、その場合にのみプログラマーを雇おうとした。プログラマーはプログラムの不 調による責任は仮定する意志はあったが、エンジニアの演算に関するエラーによる責 任は分担したくない意志を示した。

3.16 特権的アクセスによる機会

ある銀行でプログラマーが、偶然彼に借り越し金があることを知った。彼の口座にさ らなる請求査定が加わらないようにするため、彼は銀行の預金システムに細工をほど こした。預金を預けるとすぐに、彼は銀行のシステムを訂正した。

3.17 個人的利益の機会

ある電話システムの従業員は、車販売の広告を新聞で見た。それは、お買い得に思え た。広告には売り主の電話番号が書いてあったが、住所は書かれていなかった。この 従業員は、彼が売り主の電話記録にアクセスすることによって、売り主の住所を確定 することができることを知っていた。彼は、これを行い、売り主の家へ行って、車の 相談をした。

3.18 ソフトウェアを得る機会

あるコンピュータユーザーは、特定の計算システムを注文するため、メール・オー ダーのコンピュータプログラム店に電話を掛けた。彼が注文品を受けとったとき、店 が偶然、とても高価なワープロソフトを彼が注文した計算システムと一緒に送ってき た。彼は明細を見たが、送られてきた計算ソフトのみが書かれていた。このユーザー は、そのワープロソフトを持っておくことに決めた。

3.19 個人情報にアクセスする機会

ある大学生は、アルバイトでデータ入力の仕事をしていた。彼の仕事は、大学のコン ピュータデータベースに、個人の学生データを入力することであった。データのなか のいくつかのものは、学生のディレクトリを利用していた。しかし、いくつかのもの はそうではなかった。彼は代数の時間にある女学生に引きつけられて、彼女に告白し たいと思った。彼女に告白する前に、かれは彼女の経歴を見つけるためにデータベー スの彼女の記録にアクセスしようと決めた。

3.20 娯楽として使用する機会

ある学生が所属しているクラスは、広範囲なコンピュータの利用を必要としていたた め、彼女は大学のコンピュータシステムにアクセスした。この学生は、コンピュータ ゲームをして楽しみ、結果的に、彼女の宿題を終わらせるために、彼女の教授に余分 なコンピュータ料金を頼まなければならなくなった。

3.21 混乱を招く振る舞いの機会

あるコンピュータ処理サービスを販売している会社の経営者が、競合社から同じサー ビスを買った。彼女は、セキュリティシステムを壊し、消費者を特定し、システムを 「クラッシュ」(他のものにサービスができなく)させようと思い、競合社のコン ピュータにアクセスした。彼女は1年以上もサービスを利用しており、常に迅速に料 金を払っている。

3.22 権限を与えられていないアクセスの機会

ある学生は、他の学生の記録にアクセスすることが可能な大学のコンピュータセキュ リティシステムの抜け道を予測し、見つけだした。彼は、この抜け道について管理者 に報告したが、2週間後に問題がただされるまで、他人の記録にアクセスし続けた。


(上村崇)
目次に戻る