はしがき

本『情報倫理学研究資料集 II』は、日本学術振興会「未来開拓学術研究推進事業」 の一環である「電子社会システム」部門のうちの「情報倫理の構築」プロジェク ト(FINE)(主拠点・京都大学文学研究科、副拠点・広島大学文学部、千葉大学 文学部)の1999年度の研究活動報告を兼ねて作成されたものであり、昨年3月刊 行の『情報倫理学研究資料集I』の続編となる。

まず、本書の構成について若干説明をさせていただく。第1部は、 プロジェクト 関係者などから寄稿いただいた論文である。特に巻頭には、おそらく世界初のコ ンピュータ・エシックスに関わる学術論文である、ダートマス大学のジェームズ・ ムーア教授の「コンピュータエシックスとはなにか」の翻訳を収録することがで きた。翻訳の許可をくださったムーア教授ならびに寄稿者の方々に深く感謝する。 また、なお、FINEのコアメンバーを中心とした論文集としては、越智貢、土屋俊、 水谷雅彦編『情報倫理学:電子ネットワーク社会のエチカ』(ナカニシヤ出版) があることを付記しておく。

第2部は、昨年同様、情報倫理に関する海外の文献紹介である。情報倫理学とい う研究領域は、生命倫理学や環境倫理学とは異なり、先行研究としての海外の文 献を輸入、紹介することから始める必要は必ずしもなく、日本も含めた世界の研 究者が同時に共同で研究を進めるという体制が整いつつある。しかし、萌芽的な 研究領域であるため、日本で情報倫理に多少とも関心をもっておられる方々が海 外の研究成果にふれる機会はさほど多くはないのも確かである。本資料集が少し でもお役にたてれば幸いである。第2部の原稿は、主として水谷が99年度に京都 大学文学研究科、文学部で行った授業の出席者の報告、およびFINE広島研究会に おける広島大学の大学院生の発表に基づいている。執筆者の方々に感謝したい。 学部生、大学院生を中心とした作業であるため遺漏も多いかと思うが、原テキス トは、すべて京都大学文学研究科の「情報倫理の構築」プロジェクト室に収蔵し てあるので、閲覧希望の方はご一報くださるようお願いする。その他にも、情報 倫理学文献センターとしての役割をはたすべく、内外の文献資料を収集する作業 は続行されている。巻末のリスト、あるいはFINEのウェブサイトをご利用いただ きたい。

『情報倫理学研究資料集 I』で掲載した各拠点での研究会報告は、分量の都合上、 本年度からは別冊とした。併せてご覧くださるようお願いする次第である。なお、 『情報倫理学研究資料集 I』は、FINEウェブサイトの、 http://www.fine.bun.kyoto-u.ac.jp/tr1/にて閲覧可能である。他の出版物に関 しても、通し番号をつけた一覧を掲載したので、資料請求などの際にご利用願い たい。 また本年度も、プロジェクトメンバーの多くは、海外での講演、研究集会出席、 研究打ち合わせなどを行った。ここでは、その簡単な報告を掲載した。 本資料集の編集は、京都大学文学研究科の水谷雅彦と江口聡(現京都女子大学現 代社会学部)、板井孝一郎が主として担当したが、その他にも加藤尚武教授を始 めとする文学研究科倫理学研究室のメンバーには、多くのご助力をいただいた。 また、本プロジェクトの遂行にあたっては、数多くの方々のご指導をいただいて いる。なかでも京都大学の長尾眞総長には、プロジェクト発足当初よりご指導を たまわっているが、本年もご多忙にもかかわらず広島におけるFINE2000での御講 演をお引き受けいただくなど、ひとかたならぬご協力をいただいている。また、 日本学術振興会未来開拓学術推進事業「電子社会システム」推進委員長の辻井重 夫中央大学教授には、プロジェクトの監督者として、日頃から厳しくも暖かいご 指導をいただいている。両先生にはとくに厚く御礼申し上げたい。 さらに、 「情報倫理学の構築」プロジェクト室で事務補佐をお願いしている今西真理さん には、休日出勤など、つねに無理を聞いていただいている。深く感謝する次第で ある。 最後になるが、人文科学系としては異例の大型プロジェクトに深いご理解とご支 援をいただいている日本学術振興会に深甚の謝意を表したい。

 
2000年5月
京都大学文学研究科
水谷雅彦

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