《研究報告》

共同体主義とは何か

ここにお届けするのは、今日幅広く自由主義を再検討する気運の中で、英米圏 を中心にその批判の旗印ともなった「共同体主義 Communitarianism 」につい ての、紹介を兼ねた研究報告です。共同体主義の代表的な論者と目される人々 は、以下の各稿に見ていただける通り自由主義に対する広範かつラジカルな批 判を提起し続けてきています。その批判は、狭い意味での政治哲学を越えて、 人間や社会の在り方についての根本的な再検討を促しています。日本にいる私 たちも、自由主義と共同体主義の間に交わされた活発な論争から多くを学ぶこ とができるでしょう。

この研究報告は、京都大学倫理学科の大学院生を中心に足掛け2年ほど続けて きた研究会を土台にしています。まだまだ基礎文献の収集と読解という段階で 研究不足の感は否めませんが、日本では紹介と議論がまだ不十分であることを 考えて、ここにとりあえずの成果を発表することにしました。

したがってまず以下の報告では共同体主義の基本的な主張を紹介することが主 たる目的となります。原稿の作成に当たっては、テーマをいくつかに絞ってそ れぞれについて担当者を決め、各担当者はそのテーマに関する基本文献に当たっ て議論の分析・整理を行い、最後に相互の読み合わせにより原稿に修正を加え る、という過程を取りました。

今後の議論の活性化に、この報告がいくばくかでも貢献できれば幸いです。


  1. 総論 :共同体主義とリベラリズムの論争 (白水士郎/伊勢田哲治)
  2. アトミズム (板井孝一郎)
  3. 徳と共同体 (江口聡)
  4. 正と善 (蔵田伸雄)
  5. 多元文化主義 (藤野寛)
  6. フェミニズムと共同体主義 (馬嶋 裕)
  7. 共同体主義と医療倫理 (奥野満里子)

『実践哲学研究』第18号所収
©(copy right) 1994, 実践哲学研究会
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Last modified: Tue Mar 12 07:15:38 JST 1996