はしがき

本資料集は、日本学術振興会「未来開拓学術研究推進事業」の一環である「電子社会システム」部門のうちの「情報倫理の構築プロジェクト」(プロジェクトリーダー・水谷雅彦・京都大学文学研究科助教授)の1998年度の研究活動報告を兼ねて作成されたものである。このプロジェクトの組織、研究目的などの概要については、収録した資料を参照していただくとして、ここでは本資料集の内容について若干説明をさせていただく。

資料集の中心部分を構成しているのは、第一に、情報倫理に関わる論文であり、これについては、プロジェクトの直接のメンバーではないが、日頃研究会活動などを通じて有益な知見を提供していただいている先生方に、お手持ちの論文の再録をお許しいただいた。記して感謝の意としたい。なお、本プロジェクトのコアメンバーを中心としたわが国初の情報倫理の論文集は、本年5月にナカニシヤ出版から『情報倫理学:電子ネットワーク社会のエチカ』というタイトルで上梓される。

第二は、情報倫理に関する海外の文献紹介である。これは京都大学文学研究科倫理学研究室が98年夏に行った合宿研修の成果を基にしている。近年、とくに英語圏では情報倫理に関する文献資料が爆発的に増え続けているが、玉石混淆の観が否めないそれら膨大な数の資料を、たとえ一部ではあっても日本語で紹介することは、この領域がいまだ確立されていないわが国においてはそれなりの意義があると思われる。紹介した論文の選択にさいしては、水谷と江口聡(京都大学リサーチアソシエイト)の両名が、比較的評価の高いと思われる論文集のいくつかから、さしあたって情報倫理の扱うべき主要なテーマについて論じているものを選び出したが、資料の入手の有無や時間等の制約もあり、必ずしもベストなものが選択できたわけではない。これを京都大学倫理学研究室に在籍中のメンバーに割り振り、合宿当日にレビューしてもらった上、論文紹介の形で原稿を執筆してもらった。水谷の特殊講義やオリエンテーションなどを通じて若干の関心をもってはいたものの、ほとんど未知の領域の論文をいきなり読まされた上に、きちんとした原稿を提出してくれた院生、学生諸君に御礼申し上げる。先述のようにこれらはまだまだほんの一部でしかなく、他にも紹介すべき文献は数多くある。それらについては、本資料集の第2号以降で、順次レビューしていきたい。なお、本プロジェクトは、情報倫理に関する内外の文献資料を網羅的に収集し、情報倫理文献センターとしての役割を果たしうるものを構築することもねらいとしている。巻末に、本年度京都大学文学研究科で購入した情報倫理関係の書籍リストを掲載しておくのでご利用いただきたい。

また、本プロジェクトでは、主拠点である京都大学の他に、千葉大学文学部、広島大学文学部を副拠点として活動を行っているが、これらの副拠点大学においては、98年度中にそれぞれ数回の研究会が開催された。本資料集では、それぞれの拠点が作成した研究会の記録を収録した。各研究会の記録、整理にあたった各拠点のメンバーの労を多としたい。

情報倫理の領域では、ここ数年の間に、多くの国際研究集会が開催されるようになっているが、本プロジェクトのメンバーも、1998年度中にそのうちのいくつかに参加した。ここでは、その簡単な報告を掲載した。なお、本プロジェクト主催の国際研究集会としては、99年3月に、「第一回情報倫理の構築国際ワークショップ」を京都で開催し、NHKニュースや各新聞でも取り上げられるなど、一定の成果を得た。本資料集にはそのプログラムを掲載する。ワークショップの英文での報告書は、近日中に京都大学学術出版会から出版の予定である。

本資料集の編集は、京都大学文学研究科の水谷雅彦と江口聡が主として担当したが、その他にも文学研究科倫理学研究室のメンバーをはじめとして、多くの方々のご助力をいただいた。特に、倫理学研究室の加藤尚武教授には、われわれのつたない研究活動を、日々あたたかくみまもっていただいている。先生のきびしくもユーモアにあふれたご指導は、研究を進めていく上での大きな励みとなった。また、本プロジェクト担当の事務補佐員の今西真理さんには、日頃からプロジェクトの遂行にひとかたならぬご尽力をいただいている。さらに文学研究科事務室の皆様には膨大かつ煩雑な事務処理をお願いすることになってしまった。厚く御礼申し上げる。

最後になるが、倫理学、哲学の分野としては異例の大型プロジェクトに深いご理解とご支援をたまわった、日本学術振興会に深く感謝したい。

1999年3月
京都大学文学研究科
水谷雅彦

目次に戻る
Last modified: Sun Jan 9 18:27:01 JST 2000